乳房文化研究会講演録

おっぱいをつくる

はじめに
 
 今日は私の作品を見たことがない人がほとんでしょうから、ビデオとスライド、音楽を使って作品を紹介していきながら、どんなことを考え、どんなものを作っているかをお話ししていきます。
 今からスライドで見せる作品は1995年くらいの作品です。それまでは京都市立芸術大学で日本画を専攻し、大学を出てからも2年半ほどは日本画を描いていました。日本画自体、あまり好きではなかったけれども描いていて、だんだんおもしろくなってきました。ただ、他のいろんなジャンル、例えば油絵や彫刻の中でも、好きなものもあれば好きではないものもあります。同じように、日本画の中でも好きな作品がありましたので、「好きなものだけ見ていこう。自分は自分の作品を作っていけばいいんだ」という考えで描いていました。
 その頃から、男女が抱きあって絡み合っているような絵を描いたり、それが抽象的な画面を構成しているような絵を描いていました。日本画をよく知らない人が見たら日本画とは思わないような、油絵かなというような感じの絵でした。

好きなものを作る−人形との出会い
 
 日本画というジャンルや素材あるいは絵画、平面などいった表現方法にこだわる必要はないとずっと思っていましたが、やっぱり自分の中で型というか、殻を作って日本画というものを描いていたわけです。ところがやっぱり面白くない。それで、人形を作ろうと思いました。
 ハンス・ベルメールという人形作家がいるのですが、ただの変態じゃないかと思うくらい素晴らしい人です。私もハンス・ベルメールみたいな作品を作りたいと思いました。とりあえずオリジナリティなんかどうでもいい。とにかく自分は何が一番したいのか、真似でも何でもいいからと人形を作り始めました。まず、等身大の人形を2体作りましたが、初めてということもあり、かなり大変だったので、次は60cmぐらいの人形を作ってみました。
 それに点々を描きました。点々の模様が好きだったんです。日本画を描いている時に、旧石器時代の洞窟の壁画に影響を受けました。岩肌の馬が描いてあるところに点々が描いてあったり、手のひらの型が押してあったりしていたのです。その点々が何かしら好きだったので、絵にもよく描いていました。気持ち悪いのが気持ちいいというのが好きなんです。だからこの人形も気持ちが悪くなって「なかなかよかったなぁー」と思っていました。この色を反転したものや派手な色遣いの色に変えてみたり、いろんなバリエーションを作っていましたが、発表する気は全然ありませんでした。
 人形作家は、日本であれば四谷シモンさんをはじめたくさんいますし、ハンス・ベルメールの影響を受けた人も多いんです。だから、私がわざわざ発表する必要はない。とにかく作ること自体が好きだったんです。当時は知らなかったのですが、草間彌生さんの作品で、マネキンに同じように斑点を描いてるのを後で知って、ますます発表するどころではありませんでした。
 次に人形にトゲトゲを付けてみました。これが実はおっぱいの形になっていて、その先端は乳首のようになっています。この頃は特におっぱいをどうこうしようなんて考えていませんでした。好きだから付けていたんでしょうね。人形を作っていて、そのうち作品がどうにかなっていくだろうと思っていましたが、技法的なこともあって人形制作に1年半ぐらいかかってしまいました。
 人形の型を使うと手や足などたくさん作れます。手の部分の型を使って作ったのがこれです。この作品を作るきっかけになったのは芸大で漆をやっている弟の作品を見たことです。その作品には皮がむけて丸いものが出ていました。それを見て「これはブルジョアだ」と思いました。ルイーズ・ブルジョアは、私の好きなフランスの作家です。弟は彼女を全く知らないで作っていたそうです。その時、自分がブルジョアになったとしたら何を作るだろうと想像で作ったのがこの作品です。これは足の型を使った作品です。

  

  

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